2011年3月17日木曜日

最初からいきなり売れるほど甘くはない、SaaS は長期戦略で取り組むビジネスだ

前回のコラムで、SaaS ビジネスは「いったん月次で損益分岐点を超えれば安定的な売上と大きな利益を得ることができる究極のビジネスモデルである」というお話をしました。

逆に言うと、その損益分岐点を越えるまでに一定の時間を必要とするというのが、SaaS ビジネスの最も大きな難点です。

SaaS はおおむね商品単価が低いため数百?数千という多くの顧客を集めるまでは、利益を出せず赤字状態が続くことになります。私の経験ではゼロから事業を立ち上げた場合、黒字化するまでは少なくとも2?3年が必要です。

従って、いかにスピーディーに事業を立ち上げ、早期に単月黒字を果たすかが戦略上重要になります。今回は実際の事業の立ち上げの流れにそって、早期黒字化に必要なポイントをご説明します。
 
まず、最初の1年目が最も苦労します。ソフトウェアの信頼性はその導入実績が担保しますが、なにしろ最初はユーザー数ゼロからのスタートです。誰も使っていないソフトウェアを導入しようという会社は普通ないですから、当然なかなか売れません。

最初は100ユーザー獲得を目標にしてください。”たったの100ユーザー?”と思われるかもしれませんが、個人ユーザーを100人集めるのと、法人ユーザーを100社集めるのとでは、同じ100としても後者のほうが難易度が高く、時間が掛かります。

私も最初は知人の会社にお願いしたり、格安で導入してもらったり、ありとあらゆる手段を使って契約をいただいてきました。そこまで苦労しても、月額数千円の商品を100個売ったところで、当然赤字です。心が折れそうになりますが、ここでやめてはいけません。継続は力なり。何がなんでもまず100ユーザー集めてください。

100ユーザーをクリアしたら、次の目標は300ユーザーです。すでに導入実績が100社あるわけですから営業活動も少しやりやすくなります。この段階での注意点が2つあります。「片手間ではやらず、必ず専任の担当者を置くこと」と「ユーザーサポートを手厚く行うこと」です。

特に新規事業として SaaS ビジネスに取り組む場合、この時点では赤字事業ですから別事業の担当者に兼務で SaaS 事業をやらせたくなりますが、これはダメです。それでは SaaS 事業は伸びません。専任担当者をつけるのは確かにコストがかかりますが、この時期は投資と割り切る必要があります。

また、この時期はソフトウェアの不具合によるクレームやトラブルも含めて、ユーザーから多くのフィードバックがあります。それらひとつひとつに丁寧に対応することが今後のクチコミ受注につながってきます。

同時にユーザーの意見を取り入れて商品を改善し、ソフトウェアの完成度を高めましょう。「ユーザー数?売上げが少ないから」「赤字だから」といって商品を売りっ放しでサポートをおろそかにすると、その後ユーザー数が伸びなくなります。

500ユーザーを越えたあたりから導入実績による信頼性や商品改善の効果があらわれて、次第にクチコミや紹介でユーザー数が増えはじめます。

この時点で事業立ち上げからすでに2?3年が経過しているため、サイトの SEO 効果も出てきますし、何よりも数年の間商品が存続し、多くのユーザーがいることは顧客に対して大きな信頼感を与えます。この「信頼?信用」お金では買えない”時間”が作り出す価値なのです。ここまでくれは一安心。早ければこのあたりの時期に単月黒字化するでしょう。そしてユーザー数が1,000を超えるとこの効果はさらに大きくなります。

最後に商品の選定基準について触れておきます。SaaS ビジネスに取り組む上での最大のリスクは技術革新です。苦労して数千のユーザーを集めても、新しい技術や商品の出現により、自社のソフトウェアが使われなくなれば全てが水の泡です。そうならないためには、何のソフトウェアを SaaS で提供するか、つまり商品選定が重要です。インフラに近く、流行に左右されないベーシックな分野のソフトウェアを選ぶことをおすすめします。

このように SaaS ビジネス時間をかけて事業を育てる覚悟が必要です。ただそれでも事業が軌道に乗った時のメリットを考えれば、チャレンジする価値は十分にあると思います。

(執筆:ブレイン株式会社 代表取締役 天毛伸一)

記事提供:ブレイン株式会社

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